我輩は「良くない」牧師である。何が良くないのかはわからない。

▶︎ 我輩は酒場牧師である

我輩は酒場牧師である。前科はまだない。とは言うものの現実には我輩はスパイ容疑でカンパラ中央警察署の留置場の中である。取り調べもないから無実潔白の証明もできやしねえ。「前科はまだない」などと言ってうれしがっている場合ではない(いや、別にうれしがってるわけじゃねえけどよ)。

この国は戦争中である。何が起こるかわからない。噂によればどうもこの戦さは我がウガンダの敗色濃厚らしいし。しかも、しかもである。この国の大統領イディ・アミンは独裁者で欧米諸国の間ではすこぶる評判が悪い。

政敵などを殺して喰っちゃう、などという黒い噂もある。なかなかローヤから出られない内にある日突然アミン大統領がここに入ってきて、「お、黄色いヤツがいる。黄色いのはまだ喰ったことがねえ。よし、タタキか活け造りにして喰ってみるべえ」なんてことにならないか、などと空想は悪い方向にばかり突っ走る。

我輩は食用牧師である。活け造りはまだない。

そんなある晩、一人のウガンダ人らしい男の人が入ってきた。高価そうなスーツに身を包んだハンサムで非常に頭の良さそうな人である。ローヤ番がペコペコしていたからきっと警察のエラい人なのだろう。彼は即座に我輩の姿を認めると(まあ、なにしろ目立ちますからね)、足早に近づいてきてキレイな英国風、しかもものすごくていねいな英語でこう言った。

「あなたは一体ここで何をしていらっしゃるのですか!?」

「いや、どうもスパイと間違われているらしくて。ただの旅の者なんすけどね」

「あなたがスパイでないことなどは一目でわかります。すぐお出ししませう」

というが早いか入口のローヤ番のところに行ってノートを調べ始めた。ありがてえ、これで出られるぞ!と思っていると、難しい顔をして我輩のところに戻ってきた。
「誠に申し訳ありませんが、私の権限ではあなたをお出しできないことがわかりました。通常の警察による逮捕であればすぐにお出しできるのですが、悪いことにあなたをここへ入れたのは秘密警察なのです」

げげ〜〜〜〜っ!あの悪名高いウガンダ秘密警察っ!我輩って実はそんな大物だったのっ!?

我輩は大物牧師である。前科はないなどと言ってる場合ではない。

「残念ながらここからお出しすることはできませんが、私にできることをさせてください。ここでの食事はいかがでしょう?」

正直な話、日本を出てから極貧の旅の連続だったのでハラいっぱいメシを食えたことは数える程しかない。金がないので常に空腹だったのであるから、ここでのメシも毎回残さずガツガツと喰っていたのだ。

ついでに言えば、周りのアフリカ人留置者たちは口々に「こんなマズイものが喰えるか!」と言って口もつけず、外から出前を取ったりしていたのである。だがそこは自分の得になることだけには機転が利く我輩である。すかさずこう答えた。

「もうしわけないが、外国人の我輩の口には合うとは言えません」

「そうでしょうとも!では、今日から一日2回カンパラ・インターナショナルホテルのレストランで食事していただけるように手配いたしましょう。毎回、迎えの者を寄越します」

なんともはや、アフリカである。本当に一日2回迎えがきてくれて、手錠もかけずに街をぶらぶら歩いて丘の上の最高級ホテルに連れて行ってくれるのである。秘密警察によるスパイ容疑の極悪犯を、である。自分で言ってりゃ世話ねえが。

しかもお食事は外国人である我輩のお口にもあうのである(ローヤのメシさえガツガツ喰っていたくらいであるのだから当たり前だが)。しかもが続くが、しかも、食事代は政府もちであるのは言うに及ばず、しばしば迎えの者はビールまで奢ってくれるのである。

てなわけで、まあ快適ではある毎日だったがいつまでたっても出られない。事態はまったく進展がない。

そのうちあることに気がついたのである。毎日2回迎えに来て食事に連れて行ってくれるのであるが、毎回違う人が来るのである。みんな秘密警察のポリコマンであるが、同じ人がまた来るということが全くない。必ず新しい人が来るのである。「変だな」と思い始めた。

ところが、2週間ほどたった頃だろうか、以前に一度迎えに来た男がまた来たのである。あれ?っと思った我輩に彼はこう言った。「き、君だったのか!」

 「へっ?」

「君だったのか!まだいたのか!まさかと思ったがまだいたのか!う〜〜〜む、これは良くない。これは良くないぞ」、「ええ?なんスか、なんスかッ!?」

何が良くないのか我輩には全くわからないが彼はホテルに向かって歩きながらも何度も何度も繰り返す。

「う〜〜〜む。まだいたのか。。良くない、良くないぞ」

何が良くないのかわからないが、大変良くないということだけはわかる。それも秘密警察官が言うのであるから実に説得力がある。これはヤバい!本当にヤバいのかもしれない。

我輩は「良くない」牧師である。何が良くないのかはわからない。

中村 透(牧師バー店主/主任牧師@酒場で教会)




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